2021年7月5日公開
或る檀家さんの月参りに初めて行った時の事だ。通常月参りでは読経し、月のその日に亡くなった人の供養をする。
そして過去帳に記載された、その家で亡くなった人の戒名全てを読み上げ、先祖代々の供養をする。
仏壇は、あみださんを中心に金色に輝く極楽浄土の様子を表現しており、美しく均等のとれた柱と欄干を配した仏教の美術品でもある。
そして、その縁には、季節季節の花々が家の人によって活けられている。
お似合いのお二人
その日は二十四日で、何年か前に九十歳で亡くなったおばあさんの月命日であった。
そのおばあさんは、近所の村から五十年以上も前にここに嫁入してきて、若い頃はこの辺りで最も美しいと言われた女性であった。
晩年も若い頃の噂を面影に残した品のある人物であった。
このおばあさんの夫は、おばあさんより先に亡くなったが、こちらも立派な男で、古い時代の男の豪快さ、優しさを体現したおじいさんであった。
寺の庫裡築造の際には辣腕をふるい、また、瓦一枚の形状に至るまで、細かく気を配った。
このおじいさんとおばあさんは若い頃、相応にお似合いの二人だったと言うことだ。
おじいさんの隣
私は二十四日のおばあさんの初めての月参りでお経を上げている途中で、過去帳の二十四日の欄を見た。
しかし、その欄は空白で、おばあさんの戒名も俗名も記載されていなかったのだ。
供養するおばあさんの戒名が分からない。
読経を止めて、私の後ろに座っている家の人に、「おばあさんの戒名はなんだったかしら?」などとは聞けまい。
それで私は仏壇の中にある一番新しい位牌のおばあさんのらしき戒名を読み上げた。
後ろに座っている家の人のその場を満たしている空気がざわつかなかったので、私は多分その戒名が月命日のおばあさんのもので間違いなかったのだろうと思った。
そして、過去帳を一日から読み上げ出してしばらくした時、私は、十二日の欄に記載されたおじいさんの戒名の隣に、おばあさんの戒名が記載されていることに気が付いた。
ああ、私は理解した。
生前仲睦まじく生きた二人が、あの世でも巡り合い、一緒に居られるように、家の人は二十四日が月命日のおばあさんの戒名を、あえて十二日が月命日のおじいさんの戒名の隣に書いていたのだ。
二人はあの世で巡り合えたのだろうか。
遠い西の国の蓮のうてなの上に、今も一緒に座っているのであろうか。
そして、その国から、今を生きる家の人々のことを思ってくれているのであろうか。
―――――そうに違いない。まだ私には、見えないけれど。